Bag end diary

J.R.R.Tolkienとその作品を中心に、日々の出来事を一人のホビットが気まぐれに綴ります。

『ガウェイン卿の物語』感想

Mae govannen!

 

2023年もすっかり春ですね。

花粉症の皆様、ご愁傷様です。

 

今回は昨年みずき書林さんから出版された、

アーサー王円卓騎士の回想『ガウェイン卿の物語』

を読み終えた感想です。

 

 

 

 

 

 

 

読むきっかけというのは特にありませんが、映画『グリーンナイト』(まだ観れていませんが…笑)と同時期だったということもあってか、その映画の告知と、字幕監修を担当された岡本先生の訳であるこの本のお知らせを同時に発見。

トールキンによるサー・ガウェインを読んで以来、もっと触れてみたいなぁと思っていたので、母と共に手に取った次第です。

 

中英語ママですらすら読めたらいいだろうなぁ、というのは置いといて。

 

 

内容は13章構成となっております。なのに読みやすい、ぎゅうぎゅう詰めではない充実感があり、非常に重厚な物語です。

 

恥ずかしながら私はアーサー王伝説、及びその物語をまともに知らず、

『サー・ガウェインと緑の騎士』を除けば、小説アーサー王物語の第1部しか読んだことが無いのですが、

それでも非常に読みやすい。

何せあの有名なガウェイン卿だから、というのもあるのでしょうが、何も知らない人が呼んでも「へぇ~」となるようなものではないでしょうか。

そしてもちろん、アーサー王物語を知る人、果てはオタクの方々まで、幅広く楽しめる本だと思います。

 

何よりアーサー王文学はとにかく広く濃い。色んな人が書いていて、色んな説があるのでしょう。

この本ではこうだったがここでは少し違うかも?といったこともあるのかもしれません。そういった点でも、ご存知の方は楽しめる作品ではないでしょうか。

 

 

そして帯の文にもあるように、この物語はガウェイン卿の視点から語られています。

傷を負って運ばれた天幕の中で、従者に話を聞かせている。

こんな切り口のアーサー王文学あったかな?と、何も知らない私が言えたことではありませんが、斬新で読みごたえがありました。

 

ガウェイン卿の視点で語られる13の物語。全てがガウェイン卿自身のことではなく、

(ネタバレは伏せます)章の主役は異なっており、宮廷の様々な人物が登場します。

やはり他の作品を多く知らない為、あれこれと適当なことは言えませんが、

一人称ならではの語り口に臨場感を覚えます。

稚拙な喩えにはなりますが、自分もその従者と一緒に話を聞いている、ガウェイン卿の隣やすぐ後ろにいて、同じものを見ているといった感覚。

 

あるいは、ガウェイン卿の目を通して、物語を追体験している。

 

巧く言葉には出来ませんが、惹かれる魅力がありますね。

 

 

 

ただ好きな動画を漁って、趣味でファンサブのようなものを作って遊ぶ、そんな私が書いていいのかと思っております。

ですが素敵な翻訳には触れたい所でございます。

繰り返し書きますように、アーサー王のテキストはまともに知らない私でして、唯一知るのがトールキンによるサー・ガウェインの現代英語訳。

中英語ママのものも読みたいッ!となっておりますが、いつも手が出せていないのが悔しい。

 

この名高いアーサー王、及び円卓の騎士の物語。

原語版に関しては存じ上げませんが、どんな書かれ方をされたのかというのが何となく想像できてしまいます。

物語の雰囲気を保ちながらも飽きることのない、美しく素敵な翻訳をありがとうございます。

 

 

 

それぞれの内容に関してですが、例によって仔細は省かせていただきます。

ガウェイン卿を彩る数々のエピソード。そう帯にもあるように、円卓の騎士たちとガウェイン卿との関わり合いが色濃く描かれています。

本当に濃い。

誰一人として抜けなかった剣を抜いた少年、突然やって来た緑の騎士、友情を引き裂いた復讐劇。

 

それぞれに巡らされるガウェイン卿の想い・苦悩があるわけで、そこには自身を含めた「円卓の騎士」たる精神とその背景が鮮やかに描かれています。

ガウェインが、今従者に語っているその状況に至るまで、何を見てきたのか。

そこから見えるガウェインの姿や騎士としての像はどんなものなのか。

うんうん、となりながら楽しめる内容です。

 

 

上に書いたように、物語後半には復讐劇が存在します。

この辺りは何となく存在として知っていたものの、一度読んだだけでは把握しきれなかったのが悔しい。

家系図、ありがとうございます。非常に助かりました。

これはランスロットとガウェインの間に起きた確執とでも言うべきものでしょうか、読んでいて止まらなかった。

あの有名な2人が、どうして友情を引き裂く羽目になったのか、そこに入り込んでくるアーサー王とその近親者との関係、これらが分かりやすく語られているので、

「成る程」となりながら、時にはのめり込んで

「Oh...」となりながら、楽しく読ませていただきました。

 

ガウェイン卿の気持ちも分かる、当然ランスロット卿の気持ちも分かる。

この辺りはもっと細かく、この部分に着目して分かりやすくも細かく書かれている本を探して読んでみたい!となりました。

どんだけやねん、って感じですが、ここだけでドラマを味わう感覚がありました。

それ位楽しかった。

 

 

そしてガウェイン卿の語る物語も、終わりに近づく。

物語終盤からは、円卓の騎士たちの儚くも悲しく散る運命を感じさせます。

全てに救済があるような終わりなど、そんなもの求めてはいけないのだ。

 

アーサー王に関しては復活云々といった話がありますが、これはキリスト教精神に関わりがあると見て良いかと考えています。キリスト教に関しては良く知りませんが。

けれど創られた物語とはいえ、彼らも人間。

個人的にはそのまま散っていくのが好きですし、死も一つの救済であり贖罪なのだと捉えています。

 

 

そして終幕。

ガウェインの従者は彼の物語を書き残しますが、これらのエピソードは所詮ガウェインにとっての真実であり、もしかしたら彼の記憶違いもあるかもしれない。

突き詰めて考えると、それらが100%信頼できるとは言えないかもしれない。

語られなかったこともあり、そこにもガウェイン卿を形作る何かがあったかもしれない。

あくまで私の考えですが。

 

それでもそれらは全て、元より描かれてきた中世イングランドの騎士、そして色々書き足されそのイメージを見直されてきた、

ガウェイン卿の物語。

彼の見てきたもの、人生が詰まっていました。

 

 

 

 

細かい内容に関して、少し考える所もあります。

例えばガウェイン卿の結婚。後書きには、チョーサーの作品が影響しているとのことでした。

確かにバースの女房の話を感じる、とも思いながら読んでおりました。

 

その上で、大元の「ガウェイン卿の結婚」の話はどうなっているのか。

チョーサーと時期はほぼ同じなのですが、それぞれに違いがあるかもしれない。

それにこちらは北西部方言、チョーサーはロンドン。言葉にもその違いが表れていたりするのでは?

研究する価値はありそうだなと感じています。

 

かの有名な首切りゲームはやはり面白い。

ガウェインは婦人の誘惑に耐えて耐えて、結局最後は帯を貰って、いざ緑の騎士とご対面。

狩ったものをあげるから、宮廷でもらったものをくださいと王に言われながら、ガウェインは帯をそのまま受け取ってしまった。

その帯はガウェインの首を守ることとなったわけですが。

 

返さなかったのだから、極端に言ってしまえば「負け」でしょうか。

それでもそれが彼自身を守ったというのは、上手く表せませんがどこか象徴的。

それは円卓の騎士としての決して許されない失敗ではなく、ある意味盾になったとも言えるのではないか?

なんてことをぼんやり考えたりしています。

 

 

それからもう一つ、これはつくづく思うことなのですが、

『ガウェイン卿の物語』も、いわば王道ファンタジーの源流の一つ。

物語には至る所に魔法の存在があるわけです。

究極を言ってしまうと、

 

「ファンタジーにおける魔法って何だ!?」

 

となってしまうのです。

言いたいこと考えたいことは山ほどあります。

もう一つ本を書きたいぐらいに。

 

 

 

それから忘れてはならない、著者訳者さんによる後書き。

読んでいて非常に楽しいものでした。

書き足されたガウェイン卿のイメージが元のものから異なってきた、それに関して

「ガウェイン卿は軽薄云々」

の下りでは思わず笑ってしまう程。

この重厚な物語で彼の苦悩や人生を見てきましたが、それでも知らないことはまだまだあるなぁと感じています。

やはりアーサー王文学、奥が深い。

 

よし、原作読むか。

 

ど、どこから・・・?(笑)

 

そういえば謝辞には、ガウェインはガンダムのシャアに通ずるとのことでした。

ガンダムに関しては、私はガの字も知らないわけですが、でも何となくかっこいいなぁというのは感じています。

 

「認めたくない物だな、若さゆえの過ちというものを」

 

シャアが赤い彗星なら、ガウェインは何でしょう。

緑の五芒星?

 

 

何だか取っ散らかってしまい、長くなりましたが、

ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

ちなみにこの記事を書きながら聴いていた曲は、

アーサー王伝説をモチーフとしたかの有名なアニメシリーズ、

通称「Fate

そして例によって私はフェの字も知らない、

しかしそれとは別で良く知っているAimerさんによる、

シリーズ担当曲及び映画の主題歌

Brave Shine」「花の唄」「I beg you」「春はゆく」

でした。

 

 

Hannon le!